STORY 3
椅子一脚と部屋。ドアハンドルとシトロエン。
平日の午前中が大好きな滝さん（37 歳・女性）は、菜園で見つけたインテリアショップの前に車を停めて、大きく背伸びをした。まだ柔らかい日差しが顔に差し込む。滝さんが着ている、白の生成りのＴシャツはシンプルで無駄がなく、着心地が最高で、毎年同じものを買い足している。
滝さんには長いことお気に入りにしているインテリアショップが何軒かある。休日のたびに大なり小なり購入し、部屋にディスプレイしていくのが目下の楽しみだ。
今住んでいる部屋の同居人は、アメリカンショートヘアの子猫が一匹。部屋は、たまたま見つけた一脚の椅子に惚れ込んで、それに合わせたい部屋を探した。不動産屋で、その話をぽろっとしたら、驚き、呆れ、笑われたが、気にしない。滝さんは思うのだ。「広い部屋の中の小さな椅子一脚。だからこそ、そこが決まってしまえば、部屋の世界観全てが決まるのよ」、と。
滝さんは映画も好きだ、とくに洋画が。映画館の匂いも、映し出される異国の気配もたまらない。月に一度は会社帰り、オフィスカジュアルのまま、映画館でレイトショーを観る。ホットコーヒーを片手に約２時間。お気に入りの監督はカウリスマキ。フィンランド人監督ならではの北欧インテリアセンスが気になっている。中でも「希望の彼方」はセンスが最高だった。
そんな滝さんの世界観を詰め込んだ居場所が実はもう１ヶ所ある。初めて出会ったのは昨年の秋、いつも通うインテリアショップの前だった。平日休みの午前中、ＭＯＳＳの中をぶらぶらとして、あまり見かけない綺麗な色味のファイルとペンケースを買った。大満足の休日。筆記具も、服も、本当にいいものをそばに置きたい滝さん。価格よりも直感が大事。いつもの曲がり角をまがると、インテリアショップの前に新しいシトロエンが停まっていた。そして、ちらりと見えたそのインテリアに、滝さんは自分の部屋がまるごと外に移動してきたかのような驚きを感じた。部屋を一脚の椅子から選んだときのように、レザーのドアハンドルひとつが滝さんに心を決めさせた。
「部屋もいい、もちろん大好き」滝さんはまたハンドルを握る。シンプルに好きな色を施したネイルが日を浴びて、つやつやと光る。シトロエンＣ３の車内はもしかしたら部屋よりも落ち着くかもしれない。滝さんは、自転車を漕ぎだす子どものように、気分良くアクセルを踏み込んだ。
全て【MOSS 2F】gs
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- Disknote オバラ店長セレクト BGM
- インテリアと映画、そんな滝さんには「ファーゴ３」のサントラを。あの映画「ファーゴ」のTV シリーズ完結編。コーエン兄弟の脚本も、雪景色も、白い息も、すべてがトータルな面白さ。これぞサントラ！
- JEFF RUSSO / FARGO YEAR3 AN ORIGINAL MGM
