STORY 1
MINIで開ける、休日のドア。
「この道を走ると、ドイツの景色を思い出すんだ。背が高い木がずーっと続く感じ」盛岡市内の保育園で栄養士として働く森田さん(29 歳・女性)は、まだ新しい匂いのするMINIのハンドルに手をかけながら、付き合っていた彼の声を思い出す。ついこないだ、桜の季節に「さようなら」を告げられた。そしてその驚きと勢いで、憧れだったMINIを買ったばかり。
森田さんが付き合っていた彼は、ゲームが大好きな人だった。最近は、買ったばかりのニンテンドースイッチに夢中で、会社から帰ってからも、休みの日も、変わらずテレビの前にいた。傍らにはジュースとポテトチップス。学生時代から4年付き合った。おかげさまでその間のゲームタイトルならば、森田さんは発売日順ですらすらと言える。
お気に入りの場所で車を停めて、小さく伸びをし、運転席のシートに身を預ける。外の景色を眺めると、桜の木はすっかり葉っぱにかわり、バックの岩手山がさらに爽やかだ。いつの間にか春は夏になっていた。森田さんは、「岩手オブ岩手」とも言える、ここからの風景が好きだ。
岩手山を照らす夕日が鮮やかで、すっかり見惚れてしまっていた。西日はさらに横へと倒れ、木の影は長く長く伸びている。
風が少しだけ冷たかったが、森田さんは思い切って車の窓を大きく開けた。街でも目を惹く、どこか懐かしい雰囲気のあるMINIは森田さんの小さい頃から憧れの車で。いつかあんな車で素敵な人とあちこちへドライブするんだ、というのが森田さんの夢でもあった。
「えいっ」とMINIを買ったのは、恋を失った勢いもあったのだけれど、もしかして、昔からの夢を叶えられるんじゃないか?とポジティブな気持ちが湧いてきた森田さん。
朱色に染まる岩手山に背を向けて、走り出す。木の影から交互に光と影が流れる。ほかほかした西日を頬に浴びながら、森田さんは思う。「部屋の中にばかりいたけどさ、わたし、外の方が好きなんだよね」
森田さんは「来週の休みは、1日外で過ごしてみよう」と決めた。本はだいぶ前から読みかけのままだった江國香織のエッセイが読みたいな。外で読むのにはぴったりだ。椅子とテーブルも用意して、お弁当を並べて。ゆっくり豆から挽いて、コーヒーを外で淹れるのもいい。久しぶりの、いい休日になりそうだ、と嬉しくなる。森田さんは西日に目を細めて強く思った。「好きになったら仕方ないけど、どうか次の彼氏が、ドライブ好きで、ピクニック好きで、本好きの、素敵な人でありますように!」
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- Disknote オバラ店長セレクト BGM
- そんな森田さんには、木漏れ日感じる英国女性フォーク作品を。伊出身で英国で活躍した「ベル・ゴンザレス」の隠れ名盤。イタリア生まれのせいか「太陽」を感じさせる暖かな一枚です。
- Belle Gonzales / BELLE